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シングルレングスアイアン探求の旅〜第2話「アイアンとは何か(その1)」

2019.07.05

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ディビッド・イーデル氏(写真・左)とPCM編集長・村田辰也

構成・文/大庭 可南太 

1974年生まれ。40歳を過ぎて突如ゴルフにハマり、米国の伝説のゴルフ理論書と言われる「The Golfing Machine」を日本で初めて翻訳。はてなブログ「ザ・ゴルフィングマシーンを勝手に解釈していくよ」の他、「PCM」でも「人はゴルフをする機械になるか」を連載中。

はてなブログ「ザ・ゴルフィングマシーンを勝手に解釈していくよ」

https://www.golfmechanism.com/aboutthisblog

イーデルゴルフ×PCMミーティングは、過去何度も開催

第二話 アイアンとは何か(その1)

 前回までの記事で、アイアンの長さを統一しようという試みはかなり大昔から存在したことと、近年にいたるまでそれが失敗してきたことを書いた。「失敗してきた」ということをより正確な表現にすれば、「機能面において、シャフト長がフローするアイアンに優位性を発揮できず淘汰された」ということになるだろう。

 一方でデイビッド・イーデルはインタビューでこう言っている。「もしゴルフというスポーツが今日この瞬間に発明されたとしたら、『じゃあ道具はちょっとずつ長さの異なるものがいっぱい必要だ』とはならないのではないか」確かに私もそう思う。現在のゴルフの道具の構成は、自然な発想によるものというよりは、長年の試行錯誤の末にたどり着いた進化論の極地のように思える。

そこでここではいったん原則論に立ち戻って、「アイアンに求められるものとは何か」について考えてみたいと思う。これはシングルレングスアイアンが「アリなのか」もしくは「優位性があるのか」を考える上でも、ゴルフの道具の現状や未来を考える上でも必要なことだと思えるからだ。

イーデルゴルフHP

http://edelgolfjapan.com

飛距離の打ち分け

 ウッド、アイアン双方に言えることであるが、まずゴルフクラブに求められる必須の機能は「飛距離の打ち分け」である。しばしば「飛びの三大要素」などと称して「ボール初速」、「打ち出し角」、「スピン量」などと言われるが、より物理学的な捉え方をすると、

  • ボールに投入される運動エネルギー量
  • 運動エネルギーを飛距離以外の要素(打ち出し角、スピン量)に転換する量

で、飛距離は決定している。

運動エネルギーの公式は

k= 1/2 mv²(1/2 x 質量x 速度の二乗)

となっている。この公式をゴルファーにあてはめると、その個人が最大限に発生させられる「運動エネルギー=k」が一定ならばどうなるのか。クラブヘッドの重量が増すほどヘッドスピードが落ちる、あるいはその逆の現象が発生するはずである。

ヘッド重量とボール飛距離の関係

 ところが面白いことに現実にはそうはならないのである。正確な言い方をすれば、そのような公式通りの結果が出るクラブヘッドの重量帯は限られている。つまりゴルフにおけるクラブヘッドの「おいしい」重量は決まっているのである。以下は現在、拙ブログで翻訳を進めている「Search for the Perfect Swing(以下SPS)」というこれまた1969年に発行されたゴルフの科学的研究を行った書物で以下のような実験を行っている。

 以下は43インチのシャフトに、様々な重量のヘッドを付けて飛距離の実験をした結果である(オンス、フィート表記にはグラム、メートル換算を加えた)。

この実験からわかることは、ヘッド重量が6オンス(170g)〜10オンス(283g)の間では、運動エネルギーの公式通りの結果となるのに対して、それ以下、あるいはそれ以上の重量帯では飛距離が落ちてしまうことを表している。またこの結果は、(常識的な)クラブシャフト長、ゴルファーのヘッドスピードに関わらず同じ結果をもたらすのである。

 なぜそうなるのかの詳細を説明することは省略するが、重要なことは、1960年代の実験を待つまでもなく、ゴルフの長い歴史の中で経験則としてこの重量帯は把握されていたとみる方が自然であろうということである。

 ブルックス・ケプカはおそらく私の三倍くらいの筋力があるだろうが、だからといって三倍重い道具を使うことは非効率なのである。不思議に思えるかもしれないが、思えば人間が使ってきた武器や道具の長さや大きさというものは、必ずしも体格や筋力の差を精密に反映しているわけではない。どんな道具にもきっと「ちょうどいい」大きさや重さというものが存在すると言うことであり、長年の歴史における改良の結果今日の道具があるのである。

では長さはどうなのか

 SPSでは同様に、55インチから35インチのシャフトに同じドライバーのヘッドを装着してプロによる試打実験を行っている。55インチはコンピューターの計算上で導き出した最大飛距離を達成できる長さであったが、現実的にはミート率が激減したために47インチが限界という結論を導き出している。また短いほうでは37インチまでが運動エネルギーの公式に沿った結果となった(飛距離が同じなのではなく、ボール初速は計算通りに確保出来るが、打ち出し角はシャフトが短くなるほど低くなったのでキャリーは減った)。

飛距離の打ち分けはどーなった?

 ここまでの実験結果でわかることは、

  • 43インチのシャフトに装着できるヘッドの重量帯は170gから280g程度
  • 自動的にクラブのバランスも上記の範囲に収まる
  • ドライバーの長さは47インチが現実的な長さの限界

 ここで新要素である「バランス」というものが登場したが、クラブごとの重量感がなるべく均一であるほうがスイングのテンポを一定に出来るのではないかと考えたらどうなるか。クラブが長くなるほど軽いヘッド、短くなるにつれてヘッドを重くしていくという工夫が発生するのではないか。

 自分で書いていて恐縮だが、上記のような経験と歴史の積み上げによって現在のクラブのスペックが固まってきたと考えるのは妥当なことのにように思う。なぜならば上記の実験結果と現代のクラブのスペックに大きな差異を感じないからである。

 だが賢明な読者諸氏は既にお気づきの通り、上記の議論は単に「運動エネルギーの観点から効率の良いクラブのスペックはある一定の範囲に収斂する」ということを主張しているだけで、肝心の「飛距離の打ち分け」とは直接関係がないのである。これまでの努力は、「運動エネルギーをロスせず一定に保つ方法」の追求であり、飛距離を打ち分けたいならば逆にロスの量で階段を作ればよいのだが、現実のクラブはそうはなっていない。

 このことから(物理的に言えば)「クラブヘッドの重量およびクラブシャフトの長さの組合せは、飛距離の打ち分けとは直接関係がない」のであり、飛距離差は他の要因で発生している、逆に言えば「同じシャフトの長さ、同じクラブヘッド重量でも飛距離差が作れるはず」と言えるのだ。

(続く)

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